断章のグリム 特別企画
ホラー体験がないからこそ、その描写はより詳細かつ緻密になる。

松坂 『しあわせな王子』※8あたりでは、もう最終章までの流れは決まっていたんでしょうか。そこから怒涛のように展開していきますよね。
甲田 「そろそろ畳もうか」みたいな話をしてあの流れになったと思います。「何巻で」みたいなことは決めていませんでしたが。
松坂 じゃああと1章増える、みたいな可能性もあったんでしょうか。
甲田 流れ次第ではありましたね。
松坂 あまりにも綺麗に展開していったんで、細かなプロットや計算があったのかと。
甲田 そういう見せかけやハッタリは得意なので(笑)。設計図どおりって好きじゃないんですよね、私が。
コミック担当 後半の話は上下巻がほとんどですが、書きたい内容が多過ぎた結果でしょうか、それとも先ほどのお話のように……。
和田 後半こそ、締切に追われてたと思いますよ(笑)。
甲田 どんどんどんどん、崖が崩れていく感じで(一同笑)。
コミック担当 あえて下巻が出てから読み始めたり、上下巻揃ってからまとめて購入される読者もいらっしゃるようですね。先日の『ノロワレ 怪奇作家真木夢人と幽霊マンション』※9の時は「さあ下巻だ」と思ったら中巻だったことにショックを受けた方もいらっしゃったようですが…(一同笑)。
甲田 いや、申し訳のない話で(笑)。
和田 今まで3巻構成はなかったですからね。最初は上下巻の予定でしたけど、中編の途中ぐらいで「これは下巻に収まらないね」って話をして。
甲田 私の話はある程度、描写芸の側面があるので、どうしても普通に書くよりも長くなってしまうんですね。
松坂 作品中の臨場感あふれるホラー的な表現に関しては、何かをイメージされながらお書きになるのでしょうか。映画的な表現を意識されるとか。
甲田 私は映画をほとんど観ないタイプで、実はあまりホラー映画も知らないんですね。どちらかというと怪談の方が、私のコアにあると思います。子供の頃からケイブンシャ※10とか学研から出ているちょっとホラーな「大全」とか「図鑑」、そういうものを好きで読んでいましたね。雑誌の投稿怪談のコーナーや実話怪談ものも時々読んだりしていますし、怪談の「語り」が好きなんでしょうね、私は。
松坂 実話怪談の文章は、読者や聞き手の想像を喚起させるような書き方ですよね。そう言われてみればわかるような気がします。
甲田 大雑把なイメージとしては、読者投稿の怪談や実話怪談が線画だとしたら、私はそれに色を付けて書いているようなもので、多分そのあたりが原点なんだと思います。
松坂 ビジュアルみたいなものは頭の中におありだったりするのですか?
甲田 実はビジュアル型でもないんですね。よく作家さんの中で絵として頭の中にあるものを文章で下ろしてるという方がいますけど、私は完全に逆で、文章を積んでいかないとイメージにならない。何と言えばいいんでしょうね……文章のリズムとか流れが先行して、そこから喚起されるものが目指すものなんです。最初に何かがあって、それを文章にするというやり方は私と真逆なんですよ。
コミック担当 ライトノベルの単行本だと表紙や巻頭にイラストを多用していますよね。こちらは本編を読むより前に、読者に作品のイメージを与えてしまうかもしれないんですが、事前にご指示とかはされたりするんでしょうか。
甲田 私は全然やらないですね。材料は渡したから、イラスト担当の方がそこから見たものを描いてもらえればいいなあと思ってます。
コミック担当 『グリム』のイラストが、三日月かける先生※11にお決まりになった経緯というのはございますか?
和田 現代ファンタジーっぽくしてあるので、怖い絵が得意な人より、怖がりな人がいいと思ったんです。怖いものをズバリ絵にしちゃうとイメージがついてしまうかな、というのがあったんで、そこは怯えてる顔とかを描く方がいいかなと。そうすると怖がりの方が…(笑)。
松坂 三日月かける先生が、著者コメントなどで「怖いものが苦手」って書かれてましたね。続けて『ノロワレ』※12のイラストもご担当されていますが、慣れることができたんでしょうか。
和田 (笑)慣れてないと思いますよ。

《※8》しあわせな王子▶『断章のグリム』12~13巻。この巻より、登場人物のほとんどを巻き込んで、最悪の事件へと物語は展開していく。
《※9》ノロワレ 怪奇作家真木夢人と幽霊マンション▶『ノロワレ』シリーズ外伝。怪異の続くマンションを舞台にした怪奇都市ファンタジー。メディアワークス文庫。全3巻。
《※10》ケイブンシャ▶株式会社勁文社。子供向け娯楽情報書籍「大百科」シリーズで、怪獣、スポーツ、ホビー、アニメなどさまざまなジャンルを扱い、いくつかはベストセラーになる。レーベル名では「ケイブンシャ」のように片仮名表記を使用する。2002年に倒産したが、「大百科」シリーズは今もプレミアがついている。
《※11》三日月かける▶イラストレーター。『断章のグリム』の装画と挿絵でデビュー。甲田作品では、『夜魔』『ノロワレ』などの装画も担当する。
《※12》ノロワレ▶日本の民話伝承、呪術をテーマに描かれたシリーズ。電撃文庫より3巻まで刊行中。